Blind Lemon Jefferson(ブラインド・レモン・ジェファーソン)

”テキサス・ブルースの父” ブラインド・レモン・ジェファーソン(Blind Lemon Jefferson)

ブラインド・レモン・ジェファーソン・・・最高の名前である。最初聞いたとき「エッ?レモン??」と思ってしまったが、ほぼ一発で覚えられるくらいにインパクトのある名前だった。

戦前ブルースに関する本や記事などを読むと、重要なブルースマンとして間違いなく挙がってくる人物でもある。

何がそんなに凄いのか?僕なりに感じたことを書いてみたいと思う。

 

謎多きブルースマン

ブラインド(盲目)

戦前ブルースマンの名前には”ブラインド〜”と名の付くミュージシャンが多い。ブラインドとは盲目のことであるが、テキサスで生まれ育ったブラインド・レモン・ジェファーソン(以下ジェファーソン)もそうであった。

そこにはいろんな要因があるらしいのだが、当時の黒人はほとんどが貧乏であったため、しかも盲目であれば乞食にでもなるしかなかった。そんな境遇を救ってくれるものの一つがブルース・ミュージシャンになることだったのである。目が見えないため耳は異常に良かったとの話もある。実際ジェファーソンは晩年に大成功してとても裕福になっている。

しかしここで一つの疑問が浮かぶ。「ジェファーソンは盲目なのになぜメガネをしているのか?」ということだ。残念ながら残っている肖像というのが、最も有名なギターを抱えた1カットの写真しかなく、ジェファーソン=メガネという認識しかないのである。

メガネをすることで盲目であることを隠していたという説もある。かと云えば、ミュージシャンになる前に生計を立てるためにレスラーだったこともあるそうだが、「盲目でプロレスなんかできるのか??」という疑問もわく。まあ見世物芸人的な感じだったという話だが。

さらに伝説では、テキサスでは有名だったジェファーソンの影響を受けてリスペクトしていた、その後ビッグなブルースマンとなるライトニン・ホプキンスやT-ボーン・ウォーカー(共にテキサス生まれ)に、盲目であるため先導役をしてもらっていたという話もある。

これらのようにいろんな情報があるため、実際には盲目だったのか視力が悪かったのかもハッキリしていないので、本当のところはわからないが、偉大なブルースマンであったということは事実なのである。

 

不明な死

ジェファーソンの生涯は36年間(1893年〜1929年)しかなかったという説が今の所有力である。

1925年にレコーディングを始め1929年で急逝したが、その間の4年間に100曲以上も録っているとのことだ。晩年には運転手付きの高級車に乗って、ピシッとスーツを着て、銀行預金もかなりあったそうである。

盲目の黒人として生まれ、いろんな苦労を重ねた後に音楽の道で成功していた矢先の出来事である。順調にいっていたし、さあこれからという時にまさかの死が訪れる。

嵐の中のシカゴでの急死であるが、その死因は交通事故や凍死、心筋梗塞、毒殺、襲われたなどいろいろあり、今となっては何が本当かもわからない。

確かに急死という不運はあったかもしれないが、レコーディングを始めてからの売れ行きや勢いは凄まじいものがあり、「Black Snake Moan」という曲などは10万枚も売れたそうである。つまり、戦前ブルースマンの中でも最も商業的には成功した一人と言える。

 

ブラインド・レモン・ジェファーソンが与えた音楽的影響

10代でギターを始めたジェファーソンは、20代の中頃にテキサスのダラスでかのレッド・ベリーに出会う。ジェファーソンの盲目のギタープレイとフィールド・ハラーを感じさせる歌声に衝撃を受けたレッド・ベリーはジェファーソンのことを師匠と呼んでギターを教えてもらいながらしばらく活動を供にした。

レッドベリーだけではなく、その後ライトニン・ホプキンスやT-ボーン・ウォーカー、マンス・リプスカムなどの偉大なブルースマンたちにも影響を与えた。

ジェファーソンは、ジャズピアニストのサミー・プライスの紹介で、戦前ブルースの名プロデューサーであるアート・ライブリーに見出されて、1925年からレコーディングを始めた。

とはいえ、1925年の最初の録音は黒人霊歌で、名義も”ディーコン・L・J・ベイツ”という偽名を使っていた。

その後は独自のカントリー・ブルース路線を編み出し、歌詞は特にセックスに関する物が多く、ギターの弾き方はかなり自由に富んでいて、いわゆる”ギターソロ”というものを最初に演奏したブルースマンだと言われている。

さらに、ジェファーソンはギターの弾き語りのスタイルなのだが、ハッキリ言って変態的である。ギターを弾いたことのある人ならわかるだろうが、ギターだけでもワケのわからないようなフレーズやリズムが多いのに、そこに歌を乗せてるのだからかなり上手い。もはや伝統芸能に近い領域と言っても言い過ぎではないだろう。

生まれつき盲目で始まった人生。その生きていく中で研ぎ澄まされた音感は、他の者が決してコピーできないような独自性を創り出し、その演奏スタイルは哲学的でもあって今だに僕たちの心に訴えかけてくる。

それでは、ここからは代表的な曲を中心に紹介していきたいと思う。

 

曲紹介

ブラインド・レモン・ジェファーソンには数曲とても有名な曲があって、ここでもそれらはトップにランキングしたが、評価の基準をどこに持ってくるか悩む。特にそのギターでの変態ぶりを発揮しているものも個人的には好きなので上位に入れている。

代表曲ランキング

11位:Dry Southern Blues(1926年)

ブラインド・レモン・ジェファーソン名義の記念すべき初録音のうちの1曲である。イントロから始まるその特徴的なギターがまさにジェファーソンっぽい。単音弾きとリズムのバッキングを混ぜ合わせたようなリフで、これこそが”ソロギター”の走りと言えるフレーズである。

また、ヴォーカルが入るとその見た目の体格とは不釣り合いな甲高い声でブルースを奏でる。この曲なんかを聴くとわかるが、ジェファーソンは自分で歌ってギターを弾くというカントリー・ブルースの典型的なスタイルだが、全体のリズムも独自のタイム感で結構自由な感じにやっている。

重要度 3.5
知名度 3.0
ルーツ度 3.5
好み 3.0
総合 3.0

 

 

10位:Hot Dogs(1927年)

いわゆるラグタイム・ブルースなどと呼ばれるもので、軽快なリズムのギターから入ってきて、そのまま最後まで流れてゆくような曲。後にステファン・グロスマンが取り上げ、再発見されることでブルース界においても有名な曲になっていった。

この曲でもギターとヴォーカルの関連性がほとんどわからないくらいに独立した音を出していて、ジェファーソンの自由な独壇場と化している。

重要度 3.0
知名度 3.5
ルーツ度 3.5
好み 3.0
総合 3.0

 

 

9位:Bad Luck Blues(1926年)

この曲のギターなんかは出だしからそうであるが、よく聴いてみるとジミー・ロジャーズなどのオールドタイムのカントリー系のフレーズにも似ている。なんとも言えないのどかさがある。ラグタイムにも精通していたジェファーソンが、時代的にそういったオールドタイムの影響を受けていても全然不思議ではない。

しかし本当にジェファーソンは変わったフレーズのギターリフと全く想像できないヴォーカルラインとの独特の融合をしていておもしろい。でもそれは、それだけ裏打ちされたテクニックがあるからこそできるのであろう。

それからジェファーソンの曲全体的に言える話だが、エンディングの一番最後の音が7thで転調したように終わっているのも面白い。戦前ブルースではよくある終わり方だが、この曲なんかはずーっと明るい感じで進んでいって、最後の音だけなんか違和感があって不思議だ。

重要度 3.0
知名度 3.0
ルーツ度 3.5
好み 3.0
総合 3.0

 

 

8位:Easy Rider Blues(1927年)

比較的まともな?ブルースである。少しカントリーっぽいブルースで単純な感じではあるがなんか好きな曲である。少し他の曲と毛色が違うし、この曲を聴くと実は結構ジェファーソンの歌声が高いことに気づく。

重要度 3.0
知名度 3.0
ルーツ度 3.0
好み 3.5
総合 3.0

 

 

7位:Long Lonesome Blues(1926年)

こちらも1926年の初期のレコーディング。しかしこの曲はシングルカットされ、結構売れたようである。世間の評判としては”男性の弾き語りで初のヒット曲”と言われている。

この曲もイントロのギターから始まり、歌が入ってくるわけだが、やっぱりギターがかなり特殊である。曲中の歌の間にちょくちょく入ってくる単弦弾きが変わっている。ちょうど歌と歌の間に入ってくる短いギターソロみたいな感じで、基本的にこの1曲を通して、ギターを弾きながら歌っているというところが難しそうだが、ジェファーソンは何くわぬ顔で淡々と演奏している。

重要度 3.5
知名度 3.5
ルーツ度 3.5
好み 3.0
総合 3.5

 

 

6位:Black Horse Blues(1926年)

またもやワケのわからないギターフレーズとそこに乗っかるヴォーカル。いったいどうやってこんな曲を作っているのだろうか?まさに変態と思うところである。リズムも変拍子だし・・・。

1926年にこんな曲が存在して、こんなギタープレイの弾き語りがされていたという時点で、当時は凄いことだったろうし、今考えてもとんでもないような気がする。ハマればハマるほどブラインド・レモン・ジェファーソンの凄さがわかっていく。

重要度 3.5
知名度 3.0
ルーツ度 3.5
好み 3.5
総合 3.5

 

 

5位:Jack O’Diamonds Blues(1926年)

これは伝統的なテキサスのギャンブル・ソングであるが、意外にもそのルーツはスコットランド民謡のようだ。ジェファーソン以外にも多くのミュージシャンがカバーしている。

終始絡みつくような、ねちっこいスライド・ギターが弾かれていて、それにユニゾンするようなヴォーカルが乗っている。完全にジェファーソンのオリジナルバージョンとなっていて、アフリカの大地とアメリカ南部の湿地帯を思わせるようななんともプリミティヴな感じの曲で、個人的には好きである。

重要度 3.0
知名度 3.5
ルーツ度 4.0
好み 4.0
総合 3.5

 

 

4位:See That My Grave Is Kept Clean(1927年)

この曲はジェファーソンの有名な代表曲である。たくさんのミュージシャンがカバーしている。ざっと挙げるとライトニン・ホプキンス、B.B.キング、ボブディラン、ピーター・ポール&マリー、キャンド・ヒート、グレイトフル・デッド、マイク・ブルームフィールド、ルー・リード、ライバッハなど錚々たる面々だ。もちろん他にもたくさんいる。

ありそうでないギターリフ。ブラインド・レモン・ジェファーソンを聴く時に忘れてはいけないのは、こんな変わったフレーズを弾きながら歌っているということ。本人独特のリズム感があって、他人にはほぼマネが出来ないのであろう。

だからこそいつまでも彼の価値について皆伝えようとしているのだ。

重要度 4.0
知名度 3.5
ルーツ度 4.0
好み 3.5
総合 3.5

 

 

3位:One Dime Blues(1927年)

相変わらずの上手いフィンガー・ピッキングで弾かれている曲で、これもかなりジェファーソン節が入っている。

冒頭から歌が入って間にソロの部分があって、ここのギターをコピーしているが、かなり難しくて苦戦している。「こんな展開よく考えつくなぁ。。。」と思わず口にしてしまうぐらいに感心してしまう。

最低限フィンガー・ピッキングがある程度は出来るようにならないとジェファーソンの攻略はギターだけでも難しいということだ。

重要度 3.5
知名度 3.0
ルーツ度 3.0
好み 4.0
総合 3.5

 

 

2位:Black Snake Moan(1926年)

この曲はパラマウントとOkehの2つのレーベルからシングルカットされて最も売れた曲で、10万枚も売れた大ヒット曲である。売れたのはシカゴでレイス・レコードの名プロデューサーであるJ.メイヨーウィリアムズ
によってリリースされたバージョンである。

「Black Snake Moan」という曲のタイトルはダブル・ミーニングで、歌詞の内容はほぼ性的なことである。「黒い蛇のうめき声」とはなんともヒワイな感じがしてしまうが、どうしてそんな歌が大ヒットしたのかもよくわからない。

しかし、やはり元々当時のブルースはそういうものだったのかもしれない。確かに考えてみれば、今から100年も前のアメリカ南部に生きるアフリカ系アメリカ人たちにとっては、目の前の現実問題としてあるのはお金のことか性的なことぐらいしかなかったのかもしれない。

重要度 4.0
知名度 4.0
ルーツ度 4.0
好み 3.5
総合 4.0

そしてさらに!なんとこの「Black Snake Moan」というタイトルの映画が2006年に公開されているのである。主演はしかもあのサミュエル・L・ジャクソンだ。内容は・・・僕もまだ観てはいないが、幼児期虐待によるセックス依存症を強引なリハビリで治していく?という、なんともマニアックな感じだ。サミュエルは元ブルース・ギタリストの役らしい。うーん、おもしろそう。。。機会があればぜひ観てみたいと思う。

出典:「Yahoo!JAPAN映画」より

 

 

1位:Matchbox Blues(1927年)

おそらくブラインド・レモン・ジェファーソンと言えばこの曲が最も代表的だろう。後のロカビリー・シンガーであるカール・パーキンスも影響を受けて「Matchbox」という曲を作っている。さらにその曲をあのザ・ビートルズがカバーをしたことでもっと知名度も上がった。

この曲、一聴するといつものジェファーソン節かなと思うが、よく聴いていくとギターのプレイがあまりにも自由にやりたいように弾いているから、それどころか究極の”ジェファーソン節”である(笑)。

トレモロピッキング(同じ音を早くカタカタと弾く弾き方)や、いきなり単音ブギーのようなフレーズが出てきたかと思うと、チャック・ベリーのようなR&Rのようなリリックが出てきたりと、ほとんどリズム無視のようなジェファーソンの縦横無尽なフレーズが出てきて、「いったい頭の中はどうなってるんだ?」と思わずにはいられない。

まさにクロスオーバー的なミクスチャー・ミュージックである。というとカッコいいが、っていうか、何でもかんでもやりたいものを放り込んでるような感じかな?

でもこの曲でジェファーソンが示したギターという楽器の可能性(ソロ楽器としての)について言えば、凄いの一言である。その後のブルース界はもちろん、ポピュラー・ミュージック界全体に与えた影響は計り知れない。

重要度 5.0
知名度 4.0
ルーツ度 4.0
好み 3.5
総合 4.0

 

 


おそらく一般的なチャート・ミュージックやポップな楽曲が好きな人にとっては、まずこのブラインド・レモン・ジェファーソンの良さや凄さはわからないだろう。いや、シカゴ・ブルースあたりのモダン・ブルースが好きな人でもあまり理解できないかもしれない。

実際僕も初めてジェファーソンを聴いた時は正直取っ付きにくかった。同じカントリー・ブルースでもサン・ハウスやロバート・ジョンソンと比べるとやっぱりわかりにくいからである。戦前の特に1920年代の録音状態は決して良いものではなく、聴き取りにくいというのもその理由かもしれない。

ただし・・・

音楽を鑑賞して評価するときに、”スルメ”という表現を使うことがある。

※”スルメ”とは、一聴した時、つまりファーストインパクトはそれなりに良いのだがすぐに飽きてしまう音楽に対して、最初は「ん?なんだかよくわからないなぁ」と思っているのだが、何度も聴いているうちに良くなっていく音楽のことで、よく”噛めば噛むほど味が出るスルメ”に例えられる。

そう、ブラインド・レモン・ジェファーソンは僕にとってはまさしく”スルメ”だったのである。

録音状態も何のその、その一聴したときはワケのわからないギターのフレーズやストロークと、そこに乗っかってくる合ってるか合ってないかもわからないようなヴォーカル。

これは僕がギターを弾くのでコピーしたりするからさらにそう思うのかもしれないが、凄さを感じるし、何より本当におもしろい。

今から約100年も前にこんなギターを弾いていたというのは衝撃的だし、またリスペクトせざるを得ない。

とにかくひと言では片付けられないが、ブラインド・レモン・ジェファーソンがブルース界のみならず、ポピュラー・ミュージック全体に及ぼしてきた革新性と影響力は超重要であることは間違いないのである。

 

その他の曲

・「Got The Blues」

・「Rabbit Foot Blues」

・「The Cheaters Spell」

・「Lectric Chair Blues」

・「Mosquito Moan」

 

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