Lightnin’ Hopkins (ライトニン・ホプキンス)

”テキサスの巨匠” ライトニン・ホプキンス(Lightnin’ Hopkins)

数々のブルースマンがいる中で、彼ほどルックス的に抜けている人はいないかもしれない。

大抵は中折れ帽やパナマハットのような帽子を被りサングラスをかけている。さらに咥えタバコなんかがあればそれはもうライトニン。

って、もはやチンピラ?である。

当時にしてはオシャレといえばそうなのかもしれないが、ただの不良オヤジのようなダーティーさも漂っていて、やることと言えばひたすらブルースを歌い、ギターを掻き鳴らしている。

そんな全体をひっくるめて、まさに”ライトニン・スタイル”と呼んでもいいかもしれない。

ただ、とにかくカッコいいのだ。

もちろん音楽も素晴らしい。テキサス・ブルースというと白人や中南米系の影響が強いかと思いきや、淡々とダウンホームなわかりやすくワイルドなブルースを聴かせてくれる。

「シンプルなのが一番カッコいいんだよ!」とでも説き伏せられるようなパワーすら感じてしまう。

そんなライトニン・ホプキンスは当時はもちろん、いまだにとても人気の高いブルースマンで根強いファンも多く、特に日本での人気はブルースマンの中でもトップクラスである。

 

戦後に活躍して録音しまくった”稲妻”

カントリー・ブルースというと、どうしても戦前の弾き語りのスタイルを連想してしまう人も多いだろう。

しかし1912年生まれのライトニン・ホプキンスは、実は初めての録音が1946年の34歳の時なので、記録上は戦後のミュージシャンとなっている。そしてそこから怒涛のレコーディングを行っており、ブルースマンの中では最も多くの音源を残していると言われている。

ただ、若い頃は何もしていなかったかというと、もちろんそんなことはない。

弱冠10歳くらいの頃、テキサス・ブルースの大先輩であるブラインド・レモン・ジェファーソンに出会い、付き人となってギターを教えてもらった。

その後いとこのテキサス・アレクサンダーやサンダー・スミスと一緒に演奏するようになり、自らを”稲妻=ライトニン”と名乗るようになった。

そしてテキサスを放浪して、場末のジュークジョイントで演奏したりしていたが、音楽だけでは食べていけなかったようだ。この間、刑務所送りにもなっている。

そんなライトニンだが、1946年にロサンゼルスでアラディン・レコードのスカウトを受けて、なんとか初録音をしてデビューとなった。この頃はまだ大人しく控えめな感じであったが、売れ行きも人気もサッパリだったようだ。

そしてしばらくヒューストンを拠点にして、ほとんどの活動はテキサス内に留まっていた。

その後白人たちの間ではレースレコードの需要が減り、より洗練されたR&Bやロカビリーに市場を持っていかれるようになる。一時的にライトニンは姿を消すようになった。1950年代後半のことだ。

ただ、それも3年間ほどのことで、今度は1959年に起きたフォーク・リヴァイバルによって白人によって再発見されてから評価が一気に高まった。1960年にはカーネギー・ホールで、ピート・シーガーとジョーン・バエズと演奏して一気に有名になった。

それからレコーディングしまくって数々の名曲を生み出すに至ったが、最終的には20を超えるレーベルからリリースしているようだ。

このように、ライトニン・ホプキンスは、1960年代にもっとも活動的でピークであり、数々の名演を残すようになった。

 

独特のテキサス・ブルース

ライトニン・ホプキンスの生い立ちやスタイルについてはある程度わかってもらえたかと思うが、音楽自体についてはどうなのだろう。

先程から書いているように1946年から録音し始めたということは、音楽界ではアコースティック・ギターからエレキ・ギターへと時代が変わっていく頃である。

ただ、ライトニンの凄いところは、そんな時代でもアコースティックにこだわり続け、あくまでも我道を貫いていたところである。晩年には少しエレキも使っていたが・・・。しかしそのギタースタイルは明らかに他のブルースマンのものとは違い、何というか型破りな一面もあり、独特なのである。

一聴すると簡単そうなプレイではあるが、あまりにも不規則で感情的なプレイが多いため、即興でコピーしようと思っても、おそらく誰もできないであろう。

結果として1959年のフォーク・リヴァイバルで再発見されてブレイク出来たのは、アコースティック(=フォーク)・ギターを使っていたからというのも、そんなライトニンの独特のスタイルが導いたといっても不思議ではない。


(出典:Discogs

また、その歌声もたくさんの人を惹きつけて止まない。そのスタイルはトーキング・ブルースも多く、語りかけるようなものを得意としていたが、もっと本質的な部分では感情をあるがままに出す野性的なところが魅力的でもある。

歌詞の内容も日常のことから風刺的なことまで、機転の良さを感じさせる。もちろんダブルミーニングの歌詞が多く、いろんなことを例えて面白おかしく歌っていて、これがまた”ライトニン節”と呼ばれるようにもなった。

 

 

 

曲紹介

先ほど書いたように、ライトニン・ホプキンスは数多いブルースマンの中でも最もたくさんの曲をリリースしている。だからその中からランキングに入れる曲を選び出すだけでもかなり大変である。

余程のライトニンフリークでもなければ、全曲聴いたことのある人はいないだろう。

僕も時間の許す限りは聴いて、彼のベストなテイクがいつ頃のどの曲なのかしっかり吟味したいのだが、それも現実的にはなかなか厳しい、、、

まあそんなこともあって、ここではいろんな人の意見を参考にしつつ、それなりにまとめてみようと思う。

アコースティックなものとエレキなものと両方があるが、一人で演っているものもバンドものもアコースティックギターの方が多い。

好みは分かれるかもしれないが、どちらもライトニン節を聴くことができるし、特に1960年以降の音の処理が良くてカッコいい曲が多い。

 

代表曲ランキング

ブルースマンの中でも最も多い曲数をリリースしているとはいえ、ここでは14曲の紹介になった。というのも、本当に数を挙げるとキリがないからである。

だから出来る限りコレは外してはいけないだろうというのを考えながら、一応は並べてみたつもりではある。

14位:Devil Is Watching You(1962年)




ライトニンはこの頃レコーディングしまくっているが、その中でも1962年リリースの名盤『Lightnin’Strikes』からの一曲。完全にアコースティックの弾き語りで終始ブギーなリフが進んでいく。

おもしろいのが途中の歌間で、アドリブで高音のフレーズを弾いているが、その時リズムはいっさい弾いていないことだ。あくまでライトニン本人のタイム感で弾きたいようにやっているところがやりたい放題な感じだ。

ただ、この頃最も脂が乗っていると言われているように、ライトニン本人が次から次へと出てくるイマジネーションや熱量が出まくっているのだろう。

重要度 3.0
知名度 3.5
ルーツ度 3.0
好み 2.5
総合 3.0

 

 

13位:Katie Mae Blues(1946年)




1946年、アラディン・レコードから放ったデビューシングルでヒットした曲。この曲を無視してライトニンを語ることは出来ないと思いチョイス。

この最初の録音はサンダー・スミスとのデュオで西海岸で行われ、まだ30代半ばのライトニンの若々しい声が聞けて新鮮である。結構荒いギターが印象的で、もうすでにこの頃からライトニン節なフレーズが出始めている。元気はいいのだが、少しサンダー・スミスのピアノの音数が多くて賑やかすぎるかなと個人的には感じた。

重要度 3.5
知名度 3.5
ルーツ度 3.0
好み 2.5
総合 3.0

 

 

12位:Black Cat Blues(1951年)




ギター1本の弾き語りで、なぜか人気のかなり高い曲。軽快なブギーで、足でリズムを取っているのがかすかに聞こえているが、それが全体のノリを出している。

「黒猫」を女性に例えるというブルース独特のダブルミーニングで、古くはチャーリー・パットンなんかも題材にしていて、ずっとブルースにおいてはスタンダード的に使われているキーワードである。

ジョン・リー・フッカーやジョニー・ウィンターなんかも使っていて、また「Black Cat Bone」というタイトルもよく出てくる。

重要度 3.0
知名度 3.5
ルーツ度 3.5
好み 2.5
総合 3.0

 

 

11位:I Woke Up This Morning(1965年)




タイトル「I woke up this morning」とブルースの常套句を持ってきているが、同名の曲がたくさんあるし、これがライトニンのオリジナルかどうかはよくわからない。ただ、「今朝起きたら」の後に続くのはだいたい悪いことなので、この曲も重いブルースになっている。

リリースは1965年でアルバムタイトルが『Down Home Blues』。もう曲も雰囲気もそのまんま過ぎて、ハマる人にはたまらないだろうと思う。なんだろうか、この度ブルースな感じは・・・

ギターはエレキを弾いており少しリヴァーブがかかってて、ウッドベースやドラムの音に絶妙にマッチングしている。ブルースハープも入っていてGood。

重要度 3.0
知名度 3.0
ルーツ度 3.5
好み 3.0
総合 3.0

 

 

10位:Needed Time(1951年)




 

この曲はおそらく伝統的なゴスペルソングなのだろう。同じ曲が「Jesus Will You Come by Here」というタイトルにもなっている。

ライトニンらしいと言えばそうなのだが、ギター1本の弾き語りであるが演奏は結構粗めな感じだ。

コテコテのブルースマンのイメージが強いライトニンが珍しくゴスペルを歌っていて、やはり違和感があるのは僕だけではないだろう。ただ、ライトニンはゴスペルを敬虔なものと捉えてはいるのだろうけど、そうは言ってもアフリカ系アメリカ人には日常のやりきれないブルースの感覚があって、それはみんな同じなんだというようなある種の優しさを感じられる曲になっている。

重要度 3.5
知名度 2.5
ルーツ度 3.5
好み 3.0
総合 3.0

 

 

9位:Trouble In Mind(1964年)




1964年のライブからのチョイス。この曲は元々ジャズピアニストのリチャード・M・ジョーンズが作ったもので、原曲はもっとクラシック・ブルースやジャズっぽいが、いろんなミュージシャンがカヴァーしており、後にブルースのスタンダード曲となった。

ライトニンのバージョンは完全にスロー・ブルースで、マンス・リプスコムとも一緒にやっている。

ちなみに憂歌団の「嫌んなった」という曲はこれが元ネタらしい。

重要度 3.0
知名度 3.5
ルーツ度 3.5
好み 3.0
総合 3.0

 

 

8位:Take Me Back Baby(1971年)




この曲は元々はフランク・ストークスの曲で、ラグタイムやカントリー色が強くてライトニンの中では一風変わったタイプの曲である。

動画は1971年のライブの様子だが、動くライトニンがこれまた渋くてカッコいい。淡々とピッキングのストロークを弾いて歌っているが、結構ノッてきて楽しそうに見える。特にエンディングのところのブレイクでピッキングを止めたりするのがカッコいい。ラストのコードの響きも良いし、なんとなくカッコつけてるところがまた個人的には好きだ。

重要度 3.0
知名度 3.5
ルーツ度 3.0
好み 3.5
総合 3.0

 

 

7位:Short Haired Woman(1947年)




これぞまさにテキサス・ダウンホームブルースとでも言うべきディープなカントリー・ブルース。

ギター1本の弾き語りで、モノトニック・ベースを刻みながらクールなライトニンのヴォーカルが乗っかってくる。初期の代表曲でシンプルでカッコいい。

重要度 3.0
知名度 3.0
ルーツ度 3.5
好み 4.0
総合 3.5

 

 

6位:Let’s Pull A Party(1960年)




1960年頃の映像。これはもう、この映像自体の価値があるからここで紹介したい。

相変わらずのカッコいいスタイルのマフィアみたいなライトニンと、横で座っているのは時折はにかんでいる可愛らしい若き日のジョーン・バエズ。親子ほどの年齢差があり、一見なんともシュールな絵に感じてしまう。

しかしライトニンのギターの弾き方は本当にカッコいい。アコースティック・ブルースを弾くならこんな感じでやりたいものだ。そしてジョーン・バエズはこの後、”フォークの女神”になるとはなかなか想像できないほど素人感があって、そのギャップがまたいい。

なかなかお目にかかれないような、とても貴重な映像である。

重要度 4.0
知名度 3.0
ルーツ度 3.0
好み 3.5
総合 3.5

 

 

5位:Bring Me My Shotgun(1960年)




1960年のリリースでその後もライトニンの代表曲となった名曲。独特のスローなダウンホーム・ブルースで、これでもかってくらい粘っこくてカッコいいブルースである。

アコースティックのブルージーなギターのフレーズから始まり、ゆっくりとブラシで叩くドラムとウッドベースが入ってきてとてもクールだ。これくらいタメたブルースってあんまりないんじゃないだろうか。ギターのチョーキングもかなり粘っこいし。

重要度 3.5
知名度 3.5
ルーツ度 3.5
好み 3.5
総合 3.5

 

 

4位:Hopkin’s Sky Hop(1954年)




ロックンロールである!いきなり最初に聞いた時には耳を疑ってしまった。

「これ、本当にライトニン?」と。エレキギターのバンドスタイルでインストなのでほとんど50’Sサウンドに仕上がっているからさらにライトニンには聞こえない。

でも、そんなアレッ?という間もなくカッコいいブギーなリフが終始刻まれていく。

他のライトニンの曲を聴いていて、いきなりこれを聞くとやっぱり信じられないが、まぎれもなく最高傑作と言われているヘラルド時代にぶちかました一曲だ。

そしてこの曲は、後にスティーヴィー・レイ・ヴォーンが名作『テキサス・フラッド』の中で「Rude Mood」というタイトルでリスペクト・カヴァーをしている。

まあしかし何をやらせてもライトニン・ホプキンスはカッコいい。

重要度 4.0
知名度 3.0
ルーツ度 4.0
好み 4.0
総合 3.5

 

 

3位:Cotton(1962年)




最初にこの曲を聴いた時に鳥肌が立った。アフリカ系アメリカ人のブルースマンが「Cotton」のことを歌うのであれば、”綿花の収穫→奴隷制度”という絵が必ず頭に思い浮かべるからだ。

そしてこの冒頭のイントロからいきなり、そんな過去の苦渋を味わった彼らのシリアスな怨念のようなものを感じ取ってしまうのは僕だけだろうか?

何とも言えない深いディープなサウンドと、とても緊張感のあるスローなブルース。無駄な音が一切なく、研ぎ澄まされた世界に浸れる5分弱の空間。ある意味僕の中ではこの曲がライトニンの中で最も重要な曲かもしれない。まぎれもなく、ブルースの真髄を感じることができる名曲だ。

重要度 4.5
知名度 3.5
ルーツ度 4.0
好み 4.5
総合 4.0

 

 

2位:Baby, Please Don’t Go(1960年代)




これはライトニンの代表曲で、ブルースでもスタンダードとなっているとても有名な曲。アコースティックもエレキもどちらのバージョンもあるが、ここでは前者を取り上げた。

元はビッグ・ジョー・ウィリアムスが広めたと言われているが、オリジナルのクレジットはよくわからない。ブルースからロックまでたくさんカバーされていて、いろんなアレンジやパターンなどがあって聴き比べるととてもおもしろい。

とはいえ、ライトニンにとってもこの曲は自身を代表するような名刺代わりの曲でもある。映像は撮影時期がハッキリしないので申し訳ないが、おそらく1960年半ばぐらいだと思う。円熟味を増したライトニンの演奏はやっぱり渋くてカッコいいのである。

ギターフレーズも、このライトニンの弾き方がその後多くのミュージシャンに影響を与えている。よってランキングも高くなった。「こんなブルース親父になれたらなぁ」とつい呟いてしまう。

重要度 4.5
知名度 4.5
ルーツ度 3.5
好み 4.0
総合 4.0

 

 

1位:Mojo Hand(1962年)




ランキング1位はやはりこの曲で決まりだ。楽曲、サウンド、タイトル、レコードジャケット、話題性どれを取っても文句なしの1曲である。

ライトニン・ホプキンスの中ではもちろんだが、ブルース界全体においても屈指の名盤と言われているこの『Mojo Hand』というアルバム。この曲は冒頭1曲目のタイトル・チューンで、まさにライトニンと言えばコレ。

動画映像なんかもあるのだが、やっぱりこの赤いジャケットに拳が突き破っている絵のインパクトが素晴らしいのでこのサムネイルとオリジナル・バージョンを上げることにした。

ブードゥー教で”魔法”や”魔術”的な意味合いで、ブルースでよく使われるスラングとして有名な”Mojo(モジョ)”というキーワードをアタマに持ってきたことでインパクトがあり、ライトニンの魅力に取り憑かれた人も多いだろう。

少し音楽的な話を付け加えておくと、この曲は終始もちろんライトニンのアコースティックギターとヴォーカルの独壇場にはなっているのだが、実はバックのドラムとウッドベースが曲全体に良いテイストを出していることに気づく。淡々と演っているのだが、特にベースの2ビートが気持ちいい。

重要度 5.0
知名度 4.5
ルーツ度 4.0
好み 4.5
総合 4.5

 

 

 


”最もカッコいいブルースマンは誰?”というアンケートをやってみたら、ライトニン・ホプキンスは必ず上位に来るだろうと思う。いや、トップかもしれない。

遅咲きと言えばその類に入るのかもしれないが、戦前のアコースティックなカントリー・ブルースから後のエレキを使用したモダンなブルースまでテキサス・ブルースの最前線で活躍した。

ただ、ずっと何をやってもライトニン節を聴かせてくれたし、そのルックスやパフォーマンスにおいてもブレることなく自分のスタイルを貫き通したところがまたカッコいいのである。

ギターを弾いていて、急に手を放したりする弾き方は、キース・リチャーズやジミー・ペイジもマネしていたし、そんなキースたちの弾き方を見て僕らはカッコいいと思った。

根底にはブルースがあるのだが、晩年までいつまでも伊達男でいたライトニン・ホプキンス。これからも、ずっと永久的にその伝説は語り継がれるべきだと思っている。

 

 

その他の曲

ライトニン・ホプキンスはかなりの曲数をレコーディングしているため、上のランキングに入れる曲を決めるのも結構大変だった。

ここでは、ランキング外とはなったがどれもライトニンの代表曲だし、むしろこちらの方が好きな曲があるという方もいるかもしれない。なので気になる曲があれば是非とも聴いて頂きたい。

・West Coast Blues(1946年)

・Big Mama Jump(1947年)

・Lightnin’s Boogie(1948年)

・Tim Moor’s Farm(1959年)

・Fan It(1959年)

・Automobile Blues(1960年)

・Glory Be(1960年)

・Have You Ever Loved A Woman(1960年)

・Last Night Blues(1961年)

・Shake That Thing(1962年)

 

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