Bo Carter(ボー・カーター)

(出典:All About Blues Music

戦前デルタ・ブルースの天才 ボ・カーター

◯1893年ミシシッピ州ボルトン生まれ (本名:アーメンター・チャットモン)
◯兄弟と共にミシシッピ・シークスを結成
◯”ダーティ・ブルース”と言われる卑猥な表現で有名なったが、音楽に関しても様々な楽器やジャンルに精通している天才肌であった。

 

ボ・カーターはミシシッピ州出身で、南寄りの「ジャクソン・ブルース」と呼ばれたりもするが、一般的には「デルタ・ブルース」の括りに入れられる。
その音楽的な懐の広さは決してデルタ・ブルースだけでは収まりきらない。ジャンルだけでなく、ギターのチューニングも変則的であったり、いろんなキーを使い分けたりと音楽での才能は凄かったようである。

 

ミシシッピ・シークス

ボ・カーターの両親は奴隷であったが、楽器の演奏に長けていたため、白人のパーティーに招かれてよく演奏していたそうだ。そして9人の兄弟がいて、皆が音楽が好きな音楽ファミリーだった。家族全員がたくさんの楽器を演奏出来て、兄弟の中には何人かはプロになるぐらいのある種英才的な環境であったとも言えるだろう。

ギターやヴォーカルをやっていたボ・カーター(アーメンター・チャットモン)と、兄でフィドラーであるロニー・チャットモン、弟でこれまたギター・ヴォーカルのサム・チャットモン、さらにギターのウォルター・ヴィンソンという布陣で『ミシシッピ・シークス』というバンドを組んだ。

チャットモン一家は、チャーリー・パットンと同じミシシッピ州のハインズ郡出身で、サム・チャットモンはチャーリー・パットンと異母兄弟だという噂を言いふらしていたようだが、真偽は謎のままである。

ミシシッピ・シークスは、”ミシシッピNo.1のストリングバンド”だと言われるぐらいにこのメンツは凄かった。ブルースはもちろん、ラグタイムやケークウォーク、オールドタイムのような曲まで幅広く演奏して、その音楽的なスキルを惜しみなく出していたようだ。

また、マンドリンで有名なパパ・チャーリー・マッコイとも仲が良く、共演していたことを付け加えておく。

ミシシッピ・シークスは1930年代に精力的に70曲ほどリリースした。中でも「Sitting on Top of  The World」が大ヒットして、後に2008年にはグラミー殿堂賞を獲得。

1938年まで活動は続いたが、解散した。


(出典:The Document Records Store

 

ダーティー・ブルース

19世紀から始まったミンストレル・ショーを盛り上げるための要素の一つとして、”ホクム(ホーカム)”という性的なことを風刺したコメディがあった。それは庶民にとって、差別的な社会構造の中で音楽に合わせて踊るダンスと一緒に、盛り上がれる数少ない楽しみなことだったのである。

特にジャグバンドなんかはマッチしていて、歌詞の中にある少し卑猥な比喩が受けていた。そしてそんな流れはブルースだけにとどまらず、カントリーやジャズにも広まっていった。

元々ブルース自体が世俗的なものだけに、ゴスペル・ミュージシャンからは避けられる傾向があったが、そうは言っても、みんな人間なので心の中には世俗的なものやお金への興味や関心はあったのだろう。かのトーマス・A・ドーシーがジョージア・トムと名前やキャラクターを使い分けていたことからもわかる。

それで、この”ダーティー・ブルース”であるが、”ホクム”と同じような意味ではあるが、よりタブーに近いものと捉えれば良さそうである。あからさまに猥褻なことや薬物使用などについて歌にしているため、ラジオで放送禁止になった曲も多い。

その特徴としては、あからさまと言ってもダブル・ミーニングで比喩を使っているので、表上は深い意味は無いような言葉を使い、裏の卑猥な内容を楽しむといったスラングや言葉遊びのようなものであった。

ボ・カーターはそんなダーティー・ブルースの代表的なミュージシャンの一人で、特にソロの時はその色がかなり強かった。

1979年にYazooがコンピレーションしてリリースした『BANANA IN YOUR FRUIT BASKET』というアルバムがあるのだが、もうジャケットからその卑猥さが伝わってくるし、収められている曲のタイトルを見てもダーティーなブルースが満載ということがわかる。ちなみにこのジャケットはあの有名なジャニス・ジョプリンの『CHEAP THRILLS』のジャケットを手掛けたロバート・クラムの作品である。


『BANANA IN YOUR FRUIT BASKET』

 

代表曲

ボ・カーターは1928年〜1940年の間にミシシッピ・シークスを筆頭に複数のユニットやバンドを組んでいる。もちろんソロでもたくさんリリースしているので、ここでは基本的には年代順に紹介していきたいと思う。

Corinne Corrina(1928年)

まずはこれ。冒頭からインパクトのあるサビで一度聞くと耳に残る曲だ。世の中にメチャクチャたくさんのミュージシャンがカヴァーしていてとても有名な曲だが、どうやら『Jackson Blue Boys(ジャクソン・ブルー・ボーイズ)』というバンドが最初の録音のようだ。メンバーはパパ・チャーリー・マッコイとウォルター・ヴィンソン、そしてボ・カーターの3人である。『ミシシッピ・シークス』結成の少し前ぐらいのレコーディングだろう。

僕はこの曲を初めて聴いたのがどこかのブルーグラスだったので、てっきりブルーグラスの曲だと思いこんでいたのだけど、今回カントリー・ブルースはもちろんラグタイムやジャズでもやっているトラディショナルな曲だということがわかった。やはりルーツミュージックは知らないことばかりで奥が深い。

重要度 4.0
知名度 4.5
ルーツ度 3.5
好み 3.5
総合 4.0

 

 

Sitting On Top Of The World(1930年)

ミシシッピ・シークスの最も代表的な曲の一つ。ブルースのスタンダードともなったとても重要な曲である。メンバーのボ・カーターの兄のロニー・チャットモンとウォルター・ヴィンソンの共作で、1930年に初回録音をしている。スタンダード曲で、他にもいろんなジャンルやミュージシャンが歌詞の内容を変えたりパロディとしてカヴァーしまくっている。中でもブルース・ロックバンドであるクリームのカヴァーが有名である。

2008年にグラミー殿堂賞に選ばれ、また2018年には米国議会図書館によって重要文化財として国立録音に保存された。とにかくブルースいや、ルーツ・ミュージックにとって必須な曲であることは間違いない。

さらに貴重な映像がある。
1978年にサム・チャットモンが弾き語りをしている映像がYouTubeに上がっていたのだ!
これは凄い・・・ってサム・チャットモン渋すぎである。

重要度 5.0
知名度 4.0
ルーツ度 3.5
好み 3.5
総合 4.0

 

 

Pig Meat Is What I Crave(1931年)

ここからはボ・カーターのソロ、とりわけその”ダーティー・ブルース”ぶりを追ってみたい。

この曲は「豚肉を切望する」という一瞬なんのこっちゃ?と思うようなタイトルだ。歌詞は「豚肉が欲しい、豚肉が欲しい」とやたら連発している。そう、勘の鋭いアナタならわかったかもしれないが、豚肉とは女性のことである。これだけ連発していると、比喩と言うより明らさまなのだが・・・。

動画はYou Tubeで、投稿者はディズニーの『3びきのこぶた』をバックにしてこの曲を流しているが、これはこれで絶妙にマッチングしていておもしろい。

重要度 3.0
知名度 2.5
ルーツ度 3.0
好み 3.5
総合 3.0

 

 

All Around Man(1931年)

これはデルタ・ブルースって感じの曲で、ロリー・ギャラガーがカヴァーして有名になった。この曲にもまた肉が出てくるが、歌詞から想像するに卑猥なことが歌われている。「ブッチャー〜」って。

重要度 2.5
知名度 3.5
ルーツ度 3.0
好み 3.0
総合 3.0

 

 

My Pencil Won’t Write No More(1931年)

もうタイトルを見ただけでなんか意味深だなとわかってしまう(笑)。

歌の内容も「私の鉛筆はもう書けません」「リードがすべてなくなった」とかベッドでどうとか何ともいかがわしい感じの歌なので、これもダーティーである。まあ具体的な内容は想像にお任せするとして、この曲もリズムがジャグバンドっぽくてさらに雰囲気を出している。

重要度 2.5
知名度 3.0
ルーツ度 2.5
好み 2.5
総合 2.5

 

 

Banana In Your Fruit Basket(1931年)

Yazooのコンピアルバムのタイトル曲である。このジャケットは本当にあからさますぎ。”バナナ”というのは万国共通で象徴なのだろう。ただ、曲の方はシンプル極まりないアコースティック・ブルースで淡々と歌われている。歌詞は面白いのだが・・・。

重要度 2.5
知名度 3.5
ルーツ度 2.0
好み 2.0
総合 2.5

 

 

Beans(1934年)

こちらは1934年にブルーバード・レーベルで録音している。ラグタイム調のギター1本の弾き語りだが、さすがにこの曲なんかを聴くとその上手さがわかる。かなり変則的なリズムで、単音弾きしているところを聴いて欲しいのだが、「なんでこんなフレーズが出てくるのだろう?」っていうくらいに不思議な自分のタイム感で弾いている。しかしこれも歌いながら弾いているからなかなか凄い。

重要度 3.0
知名度 2.5
ルーツ度 3.0
好み 3.5
総合 3.0

 

 

Please Warm My Weiner(1935年)

この曲はYazooからリリースされたホクム・ブルースのオムニバス・アルバムのタイトル曲として挙げられたまさにホクムの代表チューンだ。「どうか私の◯◯を温めて」っていうタイトル。曲はシンプルなカントリー・ブルースだし、聴いた感じはモロにデルタ・ブルースでかっこいい。英語が理解できないと、なかなか初聴で判断するしかないのだけれど、この曲がこんなに軽くて卑猥だとは思わなかった。「あ〜もっとリスニングが出来ればなあ。」と嘆いてしまう今日この頃である。

重要度 3.0
知名度 3.5
ルーツ度 3.5
好み 3.5
総合 3.5

 

 

Cigarette Blues(1936年)

これもかっこいいカントリー・ブルースの曲だ。1936年の録音ということで、状態もかなり良さそうで、ボ・カーターのヴォーカルも通ってて良い声を出している。また、この曲でもギターの上手さがアリアリとわかる。

重要度 2.0
知名度 2.5
ルーツ度 3.0
好み 3.0
総合 2.5

 

 

Pussy Cat Blues(1936年)

かわいい猫や子猫が転じて若い女性という意味の”プッシー・キャット”。そのブルースなので、おおよそ想像は付くだろう。こてこてのダーティー・ブルースだ。デルタ・ブルースなのだけど、なんかギターの伴奏フレーズには特徴がある。しかしボ・カーターは本当に元気だなぁ。

重要度 2.0
知名度 2.0
ルーツ度 3.0
好み 2.5
総合 2.5

 

 

Your Biscuits Are Big Enough For Me(1936年)

”ベイビー””パン””ビスケット”なんかが歌詞の中に出てくるのだが、そのままだとなんのことかよくわからない。ダーティー・ブルースを読み解くカギはダブル・ミーニングにあるので、そのへんはよく考えてみないとなかなか生粋の日本人には正直難しい。音の方はマイナーコードを使っていたりして少し変わった雰囲気を醸し出している。

重要度 2.5
知名度 2.5
ルーツ度 3.0
好み 2.5
総合 2.5

 

 

Old Devil (1938年)

1938年、テキサスでの録音。この演奏は本当に凄い。おそらく弾き語りの一発録りなのだろうが、このギターを弾きながら歌っているのはちょっと考えられないくらいだ。ボ・カーターがギターもかなり上手いのは先述しているが、これを聴くとよくわかる。

また、この時はエレキギターを使っていることもあって、かなりテキサスやシカゴのモダン・ブルースに近い感じだ。これを聴く限りでは後続のミュージシャンへの影響も大きかったことが伺える。

重要度 3.5
知名度 2.5
ルーツ度 3.5
好み 3.0
総合 3.0

 

 

Let’s Get Drunk Again(1938年)

ラストはこの曲。ホクムではあるがちょっとソフトな感じのいい曲だ。これもラグタイムっぽいが、相変わらずボ・カーターのギターの上手さが光る。ギターのベースとソロをフィンガーピッキングで同時に弾いているのだろうが、2本で弾いているかのように聞こえる。このへんのカントリー・ブルースのギターは僕も練習しているが、本当に難しい。ボ・カーターはしかも歌っているのだから相当凄い!

重要度 3.5
知名度 3.0
ルーツ度 3.0
好み 4.0
総合 3.5

 

 

最後に

ボ・カーターは一般的にミシシッピ・シークスのメンバーとして有名であるが、今回見てきたようにソロでも相当凄いことがわかった。というか、売上や知名度ではミシシッピ・シークスで、その音楽的な才能やセンスにおいてはソロの方が出ているような気が個人的にはする。

ボは20代の後半あたりから段々と目が見えなくなっていった。1940年くらいまでは音楽をやっていたが、その後はメンフィスに移って音楽活動をストップしてしまった。

その音楽的な才能とスキルは申し分なく、5種類ものギターのチューニングを使い分けていたそうだが、復活することはなく、1964年には脳出血で亡くなってしまう。60年代のフォーク・リヴァイバルの流れに乗って再発見される前に亡くなってしまったのはとても残念だが、彼のヒストリーを見てきてその偉大さがわかった。

 

 

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