Washington Phillips(ワシントン・フィリップス)

”天国へと誘うエヴァンジェリスト” ワシントン・フィリップス

ワシントン・フィリップスというゴスペル・シンガーの名を知ったのはルーツロッカーとして有名なライ・クーダーの2ndアルバム『Into The Purple Valley』に収録されている「Denomination Blues」という曲を聴いてからである。

いきなり謎めいたオルゴールのような鉄琴の音で始まり、最初は少し違和感を覚えた。しかし、まあ確かにほのぼのとした曲ではあるが、しっかりとディープなスワンプブルースっぽい感じで興味をソソられた。

そして他にもライ・クーダーはワシントン・フィリップスのカヴァーをやっていて、これは押さえなくてはと思い本家を聴くに至ったのである。

 

ここ日本において、ワシントン・フィリップスは数多いゴスペル・ミュージシャンの中でも決して特に有名というわけではない。それでもここで取り上げたのは、その音を聴いてなんとも言えない感覚、そうある種サイケデリックで天国に最も近いような、且つ癒やされるような気分になったからである。

そんなワシントン・フィリップスの音楽に影響を受けて後々にカヴァーしているミュージシャンは、特にゴスペル系に多い。

また、『ブルース・ゴスペル(エヴァンジェリスト)』という括りで見ると、最も初期のミュージシャンとも言える。

 


(出典:The New York Reviewより)

 

”クリスチャン・ブルース”や”ゴスペル・ブルース”といった呼ばれ方もするエヴァンジェリスト(伝道師)。あなたがまだ聴いたことがないというのであれば、この機会にぜひその感覚を味わっていただきたい。

 

謎を呼ぶ不思議な楽器

ワシントン・フィリップスの話になると、必ず持ち上がるのがこの楽器のネタである。

先ほども書いたが、ライ・クーダーのカヴァーでは謎めいたオルゴールのような鉄琴の音という表現をしたが、原曲の方はどうかというと、これまた不思議なハープのような音がしていて、その伴奏の上にブルースというか賛美歌というか、なんともメロディックなゴスペルソングが乗っかってくる。

このヴォーカルももちろん素晴らしいのだが、それを引き立てているのがそのハープのような楽器の旋律なのだ。なんとも斬新である。

で、その楽器の何がネタになるかというと、実は”実際にどんな楽器を使っていたか?”という確証がこの今の2021年現在でも取れていないからである。つまり、いろんな調査や関係者へのインタビューなどで、ほぼ解明されてはいるが、未だに断定できるものではないということ。

ちゃんとした記録が残っていないので、最終的にはあくまで想像の域を出ないらしい。

細かな説明は僕も専門ではないので省くが、以前までは「ドルセオラ」という楽器だと考えられていたが、今はフレットレスの「ツィター」という楽器で、しかもワシントン・フィリップスが独自でカスタムして《マンザレン》と呼んでいたのではないかというのが研究者の見解である。

このワシントン・フィリップスの楽器の話になると、なんかもう凄くオタクな(失礼)研究者たちがこぞってその解明を競っているような記事がネット上にもいっぱい出てくる。

例えばこんな記事 → 『ワシントン・フィリップスのCD研究

まあでも、確かにそのぐらい不思議な音を出しているので、究明する価値はあるかもしれないが・・・。いずれにしても、他に誰も使っていない唯一無二のオリジナル楽器を使い、この独特の天国系の音楽を作り出していることは間違いない。

 

代表曲

その不思議な楽器と絶妙にマッチングしたワシントン・フィリップスの歌声は感動すら覚え、ほとんどの曲において一貫して聴くことができる。

生涯に録音された曲は多くはなく、1927年〜1929年の3年間で今も音源が残っているのは16曲しかない。しかしここではそのうちご紹介する曲が全部で9曲。どれもワシントン・フィリップスらしさが出た珠玉の曲集である。

Lift Him Up(1927年)

まずはこの代表的な曲。僕自身あまりキリスト教のことが詳しくないので、正直感覚としてもわかりにくいのだが、『ヨハネの福音書』の内容から書かれているようだ。ヨハネの福音書は新約聖書の4つの福音書のうちの一つでイエスの使徒ヨハネが書いたと言われる。

なんとも言えない涙腺を刺激するような楽器の音とワシントン・フィリップスの声、そしてその歌詞に感動し、泣いてしまうというコメントがYou Tube内にも投稿されている。

そう、この感じがまさしくワシントン・フィリップスなのである。

重要度 3.0
知名度 3.0
ルーツ度 3.0
好み 3.5
総合 3.0

 

 

Paul and Silas in Jail(1927年)

こちらは「使徒言行録」から聖パウロとサイラスの話。投獄された二人が主に祈り続けて助かるというような内容(だと思う)。

曲は同じようなパターンのスタンザ(塊)を繰り返している。わかりやすく言うと、12小節ブルースみたいに一つのパターンを何度も繰り返している曲である。しかしこの「マンザレン」の音は本当に不思議だ。まるで歌っているよう。

重要度 3.0
知名度 2.5
ルーツ度 3.0
好み 3.5
総合 3.0

 

 

Mother’s Last Word To Her Son(1927年)

ワシントン・フィリップスの作曲で、日本語では「母の息子への最後の言葉」という意味深そうなタイトル。彼の代表的な曲となっているが、それは2011年公開の衝撃映画『We need to talk about Kevin(邦題:少年は残酷な弓を射る)』で使われたからのようだ。僕もまだ観れていないが。

このような前情報をもってこの曲を聴くと、なんとも言えない悲しさを感じてしまうが、ワシントン・フィリップス自身が持っていた独特の感受性が本当に素晴らしいと思う。

重要度 3.5
知名度 3.5
ルーツ度 3.0
好み 3.5
総合 3.5

 

 

Take Your Burden to The Lord And Leave It There(1927年)

「Leave It There」というのは有名な賛美歌で、チャールズ・A・ティンドレイというメソジストの牧師が1916年に作曲している。「苦しいことは置いていきなさい。そして神に任せなさい。」といった感じだろうか。また、この曲はワシントン・フィリップスの最初の記念すべきシングルでもある。

ゴスペル系ミュージシャンを中心にカヴァーがメチャクチャ多いが、ワシントン・フィリップス独自のその透明で天使的なサウンドはとても評価が高い。

重要度 3.5
知名度 4.0
ルーツ度 3.0
好み 3.5
総合 3.5

 

 

Denomination Blues(1927年)

冒頭でお話したライ・クーダーが1972年にカヴァーして有名になった曲である。これも同じスタンザを繰り返す有節歌曲形式というパターン。しかしライ・クーダーがカヴァーするまでほとんど世の中には知られていなかったようだ。

キリスト教の中にはたくさんの宗派があって、細かな部分で細分化され、各々がくだらない争いをしているのをワシントン・フィリップスは皮肉っている。根本は純粋に神を崇拝しているのだから、みんな同じなんだと諭すような内容。相変わらず「マンザレン」の音が良い。

重要度 3.0
知名度 4.0
ルーツ度 3.0
好み 3.5
総合 3.5

 

 

What Are They Doing in Heaven Today?(1928年)

原曲はチャールズ・ティンドレイの作曲で、録音はワシントン・フィリップスが最初の名賛美歌。2005年公開の映画『エリザベス・タウン』でこのワシントン・フィリップスバージョンが使用された後、さらに有名になった。もちろん、この曲もたくさんのミュージシャンがカヴァーしているが、特筆すべきは近年にリリースされたMogwaiというポストロックバンドがカヴァーしたことだ。独特の世界観を出している。

音はさすがのワシントン・フィリップス節で、まさに天国ソングである。

重要度 3.5
知名度 4.0
ルーツ度 3.0
好み 3.5
総合 3.5

 

 

I Had A Good Father And Mother(1929年)

これはワシントン・フィリップスの作曲。口ずさむメロディ・ラインがどこか物悲しく感傷的になってしまう。ある種のノスタルジーを醸し出していて、動画のコメントにも「今まで聴いた中で最高だ」とか「泣けてくる」といった大賛辞が多く、それはワシントン・フィリップスの曲全体に言われていることだ。

重要度 3.0
知名度 2.5
ルーツ度 3.0
好み 3.0
総合 3.0

 

 

The Church Needs Good Deacons(1929年)

教会には良い執事が必要という歌。まあ簡単に言うと誠実で貞操を守らなければいけない、浮ついて遊んでいてはダメだというような曲である。聖人のスティーブンのような人が望ましいと。

ゴスペルっぽい歌メロでワシントン・フィリップスの感情も入っているし、間奏では「マンザレン」の二重奏が出てきてとてもいいメロディを奏でている。いい曲だ。

重要度 3.0
知名度 2.5
ルーツ度 3.0
好み 4.0
総合 3.0

 

 

You Can’t Stop A Tattler(1929年)

最後はこの曲。これもライ・クーダーやリンダ・ロンシュタットがアレンジや曲名を少し変えてカヴァーしている。

間に出てくるハミングがなんともいい味を出している。それから改めて聴くと、本当にハープのようなマンザレンのキレイな音が心を洗ってくれるようだ。快晴な星空を眺めながら聴きたい。そんな気分にさせてくれる。

重要度 2.5
知名度 2.5
ルーツ度 3.0
好み 3.5
総合 3.0

 

ワシントン・フィリップスは、「マンザレン」を使っているものは基本的にどの曲も天国系になる。だから、この感じや曲調が好きな人であれば全部気に入るんじゃないかと思うが、そうでない人にとっては物足りないかもしれない。

しかし独特のゴスペルを、オリジナルの独特の楽器を使って感動させてくれたことは間違いなく、それはたくさんのカヴァーをしているミュージシャンや、You Tubeに寄せられているコメントを見てもハッキリとわかる。

個人的にはもっと称賛されるべきなのではないかと思うので、ここに微力ながら少しでも留めておきたい。

 

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